割れたものを、
なかったことには出来ないまま、
それでも手に取って、触って、
仕方なく今日を消費している。

修復、
というほど立派なものでもなく、
回復、
なんて言葉は、
最初から信じていない。

増えてしまった無秩序を、
どうにか価値と呼ぶしかない、
そういう生活。

壊れたものは、
元には戻らない。
時間も、配置も、
最初に触れたときの
あの手触りも。

エントロピーは、
こちらの事情などお構いなく、
ただ正しく増えていく。

日本の技術の金継ぎは、
そこに逆らわないから好き。
物理学的には、
いやらしくらい従順で
だいぶ気に触る。

でも、
意味のほうだけは
みっともなく反旗をひるがえす。

壊れたことを消さないし、
なかったことにもしないし、
それでも、使うことをやめないし。
ずいぶん、往生際が悪い。

これほどエントロピーに近づいて、
それでも美を置こうとする技術は、
日本の金継ぎ以外、思いつかない。

金継ぎは最も正確に、
取り返しのつかなさを理解した上で、
それでも意味を足してしまう。
ずいぶんと始末の悪い偏執狂だ。
だから好き。

今日もまた、
元に戻らないものを使い続ける、
という選択をする。

それが、今のわたしの生活で、
たぶん、生き方の正体みたいなもの。

SMの日記なのにら
こんなことを書くくらいには、
きっと少し調子が悪い。

どう思われようと構わない。
書ける場所が、
ここにあるだけだから。
それでも、
生活は続いているから。


クロエ

部屋に入った瞬間、
外の冷たい空気が、
そのままついてきた。

コートを脱いだのに、
首の後ろだけ、
まだ冷たいまま。
早く温まりたい、
って思った自分が
ちょっと恥ずかしい。

今日は、動かない日なのに。
身体から、
いらないものを出したいだけ。

なのに、何もしてないのに、
呼吸の奥が、少しだけ熱い。

少し前、
消毒液の匂いがする部屋で
「口を開けてください」
「温かいの入りますね」
「次、冷たいです」
あの一連を、
まだ身体が忘れてくれない。

静かにしてるつもりなのに、
落ち着かない場所が、
はっきり分かる。

読んで、
何か引っかかったなら、
今日はそれでいい。
夜は、無理に片づけなくていいから。


クロエ

なんだか全身が、
静かに筋肉痛。
昨日、
少し動きすぎたのかもしれない。

身体のあちはこちらが
ちゃんと覚えてるのに、
私はまだ何も言わない。

日曜日。
今日は、
回復するふり。


クロエ

支配が始まる前の
一瞬の緊張感が好き。

触れる前に、
縄を一度
指で確かめるところ。

締める前から、
どこに力が入るかを
もう見抜いている視線。

急がないくせに、
ひと結びで
逃げ場をなくすところ。

頭の中では、
安全量を超えた静けさが
ゆっくりと
濃くなっていく。

自分から動く理由は
きれいに遮断されていて、
わたしは
指示を待つだけの身体になり
あなたの欲望を
静かに映す鏡になっていく。

そうされてしまうのも、
好き。

週末の夜は、
選ぶ側も、選ばれる側も、
少しだけ
身体の方が正直になる。

今日は、
わたしを
深く深く使ってもらうつもり。

そういうのも、
とても好き。


クロエ

今日は、
身体が少し静か。

疲れているわけじゃなくて、
深く触れられたあとに残る、
熱が落ち着いた感じ。

何度も波が来て、
もう一度欲しいかどうかを
考えなくなったあとの身体。

限界を越えたあとに訪れる、
あの無音の時間。

男の数だけ、欲望が違う。
その違いに触れるたび、
身体が自然に対応していく。

そんな身体にされるのが
好きな変態、
たぶん私のこと。

だからこういう日は、
無理に言葉を足さないで、
ただ余韻に浸っていられる。

そのほうが、
この気持ちよさ、
かえって伝わる気がする。

今日は、静かに深く。
欲しくなったら、それでいい。


クロエ